「健やか鍼」の臨床報告

症例　Ｅ・Ａさん　３２歳　女性

不安神経症　過敏性腸症候群(下痢型)　頻尿

過敏性腸症候群は、便秘型も下痢型も急増している疾患である。便秘型は女性に多く、下痢型は男性に多いという傾向がある。いずれにしろ、圧倒的に神経過敏な方にみられる。下痢型の体型は、痩せていて胃腸下垂タイプに多い。その理由は定かではないが、恐らく腸管の運動が激しく、栄養の吸収が低下気味なのだろう。この女性も、長い間過敏性腸症候群下痢型で悩んでいたそうだ。家人の紹介で、来院する。見ると、痩せていて、こめかみに青く血管が浮き出て、いかにも神経質そうである。尋ねると、食後下腹部がポコっと膨れるという。間違いなく内臓下垂がある。仕事は事務ワークだが、たまに外回りすることもある。特に外回りのとき、過敏性腸症候群による下痢が起こりやすいとのこと。資料に抜けはないか、相手の心証を悪くしないかなど、色々なことを心配しているうちに、お腹がグルグル鳴り出し、訪問途中で、何度もトイレに駆け込むと言う。但し、凡そ３度用を足すと、落ち着くようだ。また、昼間、６～７回ぐらいは小便にも行くそうだ。外回りのときは、更に２～３回増えるという。訪問先の 前で、尿意切迫感を感じ、近くのコンビニのトイレを借りたら、アポの時間に間に合わなくなってしまったこともあるそうだ。内科で下痢止めの薬をもらったが、ガスが溜まり、逆に便秘になることがあったとのこと。抗コリン系の薬剤かもしれない。漢方薬は芍薬甘草湯と処方されたようだが、生理の時手足のむくみが強くなり、続けることが不安になったとのこと。その他、ヨーガも行ったことがあるようだ。そこで、腸管の運動のバランスを取るため、頭の百会、手の曲池、陽池、足の三里、梁丘、上巨虚、陽稜泉、陰稜泉、地機、三陰交、内庭、腹部の中完、気海、背中の膈兪、脾兪、大腸兪などのツボに鍼灸治療を行った。また、大便も小便も催してきたら、曲池を痛くなるぐらい、指圧しなさいと指導した。このツボは、様々な切迫感を緩和する作用がある。度々高速道路のパーキングエリアの女子トイレが混みあうが、このツボを強圧迫して、難なく用を足せたという話を聞くことがある。この方も訪問先を目の前にした路上で、排尿したい気持ちになり、慌てて曲池を強指圧したら、全く尿意を感じなくなったとのこと。更に便意も同じように軽減したとのこと。その後は、いざというときは肘のツボがあると信じることで、切迫的な尿意も便意も激減したという。鍼灸治療が過敏性腸症候群に効果があるということは、多くの臨床家が報告しているが、このような行動療法を併用すると、更に効果が高まる。