東洋医学でも古くからうつ病に関する記述があります。特にうつ病に関わりのある臓腑は肝と胆と言われています。
例えば、素問霊枢という古典医学書には「肝は将軍の官、謀慮これより出ず。」とあります。
肝は将軍のような心を持ち、計画を実行したりするときに中心的な役割を果たすということになります。
その他、肝には身体の循環を促進させる作用があるとも言われています。これを疏泄作用と呼んでいます。循環が順調ならば、気持ちものびのびしていられます。
また、「胆は中正の官、決断これより出ず。」との記述もあります。
中正の官とは、どちらにも偏らず正しいこと行う役人という意味なので、正義感を持ち勇断するということになります。
更に肝と胆は協力関係にあり、胆が決断することにより肝が行動に移れるとされています。
これら肝や胆の働きが失われると、鬱々として取り留めのない行動をするようになり、決断もできず内向的な生活を送ることになります。まさにうつ病の根本的な症状です。
その対策として、鍼灸や漢方薬が利用されてきました。
西洋では古くからアロマテラピーが盛んに利用されてきましたが、最近ではヨーロッパでも鍼灸の抗うつ作用が認められ、多くの人々がうつ病から解放されています。もともとヨーロッパの人々は鍼灸治療に信頼性をおき、多くの国で保険適応になっています。
その一端がNHK総合「東洋医学ホントのチカラ」で、うつ病に対する鍼灸治療の効果が紹介されました。イギリスではうつ病の治療に鍼灸を積極的に取り入れ、成果を上げているとの内容でした。
同じように日本国内でも鍼灸の抗うつ効果が論文として発表され、注目を集めています。この論文でも光トポグラフィーの脳血流の増加を効果の指標としていました。鍼灸の抗うつ効果は間違いありません。
安鍼は脳神経の三叉神経に直接刺激を与えますので、更なる効果が期待できます。
うつ症状が改善すると、頑固な不眠も解消します。明るい気持ちにさせるセロトニンが脳内にあふれ、それが夜にメラトニンに変換され熟睡に導くのです。
目次
うつ病や不眠は脳機能の低下
うつ病になると、
- 気分はしずみ
- やる気も出ない
- 頭がまわらない
- 肩こり
- 腰痛
- 便秘
- 下痢
などの肉体的な症状もあらわれます。その上、眠りについても途中で目がさめてしまい、そのあとはウツらウツらで朝をむかえてしまう。
こんな症状で悩む方にお勧めなのが、脳を活性化する「安鍼」です。
この治療法は長い研究の末に編み出された当院のオリジナル鍼灸治療ですので、鍼灸師なら誰にでもできるというものではありません。続けることで、習慣性のある薬を使わずうつ症状や不眠を改善すること期待できます。
また、現在多種の薬剤を服用している方でも、減薬できる可能があります。
脳を活性化して心の病と闘う鍼灸治療、それが「安鍼」なのです。
うつ病に深い関わりがあるのは前頭葉と大脳辺縁系ですが、うつ病の場合、前頭葉の左DLPFC(左背外側前頭前野)の血流が低下する一方、相対的に大脳辺縁系の活動が目立つようになるという学説があります。
左DLPFCは前向きな心を掻き立て、冷静に物事を判断する能力があります。
大脳辺縁系は主に本能や感情を司っており、食欲や性欲、睡眠欲、喜怒哀楽などを心に反映させる働きがあるのです。
したがって、日々の精神活動において、ストレスや疲労、自然、環境などの因子がマイナスに作用すれば、左DLPFCの機能が低下し血流の減少とともに大脳辺縁系の偏桃体などから送られる嫌悪的な情動に対して抑制がきかなくなってしまうのです。
その葛藤が続けば、抑うつ的な気分になるのは当然でしょう。
更に最近の研究で、右DLPFC(右背外側前頭前野)の過敏な反応も問題視されています。
右DLPFCは悲観的な予測をするところで、過剰に反応すればこの世の森羅万象全てが空しく感じてしまうでしょう。
左DLPFCの活性化
うつ病になると、前頭葉の左DLPFC(左背外側前頭前野)の血流が低下し、喜びを感じる機能が衰えるという研究結果が数多く学会に発表されています。
左DLPFCは快予測を司っていますので、まず間違いないでしょう。
つまり、左DLPFCは見る聞く行動する際に「きっと楽しい、自分のためになる」など、プラス思考を思い浮かばせる機能があるので、それが薄れればうつ病になってしまうのは当然でしょう。
そのため、最近では経頭蓋治療用磁気刺激装置を利用するうつ病治療が多くの心療内科で行われるようになりました。強い磁気の作用で左DLPFCの血流を増加させ、うつ病を改善させるという治療法です。
一般的にTMS(経頭蓋磁気刺激法=けいとうがいじきしげきほう)と呼ばれています。
当然、うつ病が原因の不眠症にも効果がみられるとのことです。
磁気を照射すると左DLPFCの血流が促進され、機能が強化されるからです。TMSは磁気シールを肩に貼り、肩こりを軽減させる方法の大掛かりなものと言えます。
「安鍼」もTMSと同じように前頭葉の左DLPFCの血流を増やす作用が確認されています。つまり、抗うつ効果が期待できるのです。
本院では脳卒中の後遺症対策として最初に唇の周り、次に目やこめかみの周りのツボに鍼を刺す活脳鍼を導入しています。
しかも健側の前頭葉に強い刺激を与えたあと、患側の脳に刺激を加えています。
この場合、光トポグラフィーでは両前頭葉に血流の増加が認められました。また、脳波では左前頭葉にβ波、右前頭葉にα波が顕著にあらわれました。
この現象は最初の刺激をどちらから与えても同じでした。異なる点は、最初の健側の前頭葉への刺激は患側の手足や顔の痛覚や触覚の感度を上げるということでした。
一方、「安鍼」では最初に右前頭葉に強い刺激を与えたあと、左の前頭葉に軽い刺激を加えています。
つまり、左前頭葉の脳血流を増加させ活性化をはかります。次に唇や耳の周囲のツボを利用して、精神を安定にさせ、リラックス状態に導きます。
なお、てんかんや統合失調症は「安鍼」の適応外ですが、その恐れがない場合は右から左に微弱な電流を流すこともあります。
次の項の図は健康人を対象にした光トポグラフィーの検査結果です。これがTMSと同じように左DLPFCの血流を増やすという根拠になりました。
「安鍼」による脳血流増加
健康人に対する「安鍼」の作用
そこで、安鍼の作用ですが、施術すると瞬時に両側の前頭葉の血流が増加します。
次の画像1の通り、正常な方を対象にした光トポグラフィーによる調査で確認されています。センサーの位置から左右のDLPFC(背外側前頭前野)の血流も増加していることが解ります。
※光トポグラフィーの画像のみかた
前頭葉と頭頂葉の一部の血流の増減をあらわしています。向かって右側が右前頭葉、左側が左前頭葉になります。また、血流の増加は青<白<赤の順に増加しています。
左DLPFCの血流が増加し機能が活性化すれば、やる気を起こさせます。右DLPFCの血流も増加しますが、不快予測機能が高まるのではなく、安心感が生まれるように作用します。
これらの実験や臨床結果から「安鍼」は左前頭葉のDLPFCと脳幹の活性化が期待できると判断しました。
そこで、うつ病や不眠症の方に「安鍼」を行い、光トポグラフィーで前頭葉の血流状態を調査しました。
うつ病や睡眠障害で困っている方の「安鍼」の作用
実際、うつ病や睡眠障害で困っている方に「安鍼」を行うと、次の通り、明らかに前頭葉の血流が促進されていました。
「安鍼」はうつ病の方にも効果を示していました。
症例1 男45歳 うつ病 早期覚醒 SSRI並びに睡眠導入剤服用
症例2 女35歳 抑うつ症 途中覚醒 睡眠導入剤服用
症例3 女42歳 うつ病 途中覚醒 睡眠導入剤服用
症例4 男52歳 脳梗塞後遺症 抑うつ症 ワーファリン 睡眠導入剤服用
症例5 女 55歳 抑うつ症 途中覚醒 デパス服用
次にどの程度の効果があるか、うつ病患者さんを対象に言語流暢性試験を行いました。言語流暢性試験は抗うつ作用の有無を調査する手段として知られています。
うつ病になると言語流暢性試験における左DLPFC血流低下が目立つということです。
そこで、同様に、光トポグラフィーを用い「安鍼」施術前の言語流暢性試験時の左DLPFC血量と、施術後のそれを比較しました。
「安鍼」の言語流暢性試験における脳血流に与える影響
言語流暢性試験とは、五十音のひらがなではじまる言葉を思い出して言葉にします。
その結果、次の症例1~3に示すように、「安鍼」施術後に左前頭葉(DLPFC含む)に顕著な血流増加が確認されました。
これにより「安鍼」のうつ病に対する効果を確信しました。
症例1 女性 43歳 うつ病 パキシル、デパス服用
施術前の光トポグラフィーマッピングデータ
施術後の光トポグラフィーマッピングデータ
症例2 46歳 女性 ルボックス服用中
施術前の光トポグラフィーマッピングデータ
施術後の光トポグラフィーマッピングデータ
症例3 男性 57歳 大うつ病 アモキサン、レンドルミン、サイレース、大黄甘草湯服用
施術前の光トポグラフィーマッピングデータ
施術後の光トポグラフィーマッピングデータ
脳の状態を調べるため脳波の変化も追いました。
「安鍼」による脳波の変化
時間をおいて再度言語流暢性試験を行い、その時の前頭葉の脳波分析を行いました。結果、α波もβ波も増加していました。
α波とβ波が共に増加するというのは、活性作用と鎮静作用が働き出すように思われます。開眼状態で脳波を測定しましたので、まず間違いのないデータでしょう。
実際、多く対象者の皆様から気持ちが落ち着き、熟睡できるようになったという意見を聞いています。
α波は睡眠導入作用があり、幸せホルモンのセロトニンを誘発させるとの見解もあります。つまり、抑うつ状態を解消させることを示唆しているのです。
安鍼施術前
2.048秒ごとのα波とβ波の成分量 黄:β 緑:α
安脳鍼施術後
2.048秒ごとのα波とβ波の成分量 黄:β 緑:α
次に聴力の検査も行いました。
うつ病の発生に聴覚の異常が関係しているという学会報告があります。うつ病になると、耳の聞こえが悪くなるとのことです。
恐らく、前頭葉の機能が低下するので、言葉の理解が落ちるのでしょう。また、海馬と連絡していますので、その影響もあるでしょう。
そこで、オージオメーターを使用して聴力に対する安鍼の作用を検討してみました。
「安鍼」による聴力強化
うつ病の方を対象に安鍼施術前と施術後の両耳の日常会話領域である500Hz~2000Hz、高音域である4000Hzの聴力レベルを調べました。その結果がグラフで示されています。
一過性ではありましたが、全例で聴力が向上していました。
安鍼の刺激は視床から三叉神経中脳路を介して中脳に送られます。中脳には下丘、上丘があり、下丘は側頭葉聴覚野に連絡しています。側頭葉聴覚野への刺激は聴覚の機能を高める可能性があります。
つまり、聴力を高め、うつ状態を緩和させることが期待できます。
安鍼 症例1
右耳
Hz | 500 | 1000 | 2000 | 4000 |
施術前 | 15 | 15 | 20 | 15 |
施術後 | 10 | 10 | 10 | 10 |
左耳
Hz | 500 | 1000 | 2000 | 4000 |
施術前 | 35 | 10 | 15 | 10 |
施術後 | 30 | 10 | 5 | 5 |
安鍼 症例2
右耳
Hz | 500 | 1000 | 2000 | 4000 |
施術前 | 15 | 25 | 25 | 35 |
施術後 | 10 | 15 | 15 | 35 |
左耳
Hz | 500 | 1000 | 2000 | 4000 |
施術前 | 25 | 25 | 20 | 40 |
施術後 | 25 | 15 | 20 | 35 |
安鍼 症例3
右耳
Hz | 500 | 1000 | 2000 | 4000 |
施術前 | 25 | 15 | 10 | 10 |
施術後 | 20 | 10 | 10 | 5 |
左耳
Hz | 500 | 1000 | 2000 | 4000 |
施術前 | 25 | 10 | 10 | 15 |
施術後 | 20 | 5 | 10 | 10 |
次に視力の検査も行いました。
うつ病の発生、あるいは悪化に視力の衰えも関与しているとの臨床データが報告されています。
「安鍼」による視力強化
うつ病の方を対象に安鍼施術前と施術後の視力を計りました。
一過性ではありましたが、安鍼施術後に視力の改善がみられました。
注目に値するのは右目の視力向上が目立ったということです。
「安鍼」の刺激は視床を介して脳幹に送られます。脳幹は中脳、橋、延髄に区分されます。中脳からは動眼神経や滑車神経、橋からは外転神経が眼球の筋肉にまとっています。
動眼神経は、まぶたの筋肉を動かし目を開かせたり、毛様体に作用してピントを合わせたり、瞳孔括約筋を収縮させて目に入る光を調整したりする機能があります。滑車神経や外転神経もピント調節しています。また、目に入った像は後頭葉から前頭葉に運ばれ、精彩に認識されます。
うつ病になると、中脳のセロトニンやアドレナリンなどの神経伝達物質の分泌低下を引き起こし、動眼神経の刺激伝達を低下させる可能性があります。
また、眼球はカメラで像を解析するのは前頭葉です。うつ状態は前頭葉の機能を弱めと推測されるので、正確に像を把握できなくなる可能性があります。
安鍼 視力の変化
識別 | 施術前右眼 | 施術前左眼 | 施術後右眼 | 施術後左眼 |
症例1 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 0.4 |
症例2 | 0.3 | 0.3 | 0.3 | 0.2 |
症例3 | 0.8 | 0.7 | 1.2 | 0.7 |
症例4 | 0.7 | 0.5 | 0.9 | 0.5 |
症例5 | 0.05 | 0.1 | 0.09 | 0.1 |
そこで、以上の調査を踏まえ、「安鍼」のうつ病や不眠症に対する作用を解剖学的に推測してみました。
「安鍼」の作用の解剖学的な推測
光トポグラフィーの実験から「安鍼」が前頭葉を活性化すること示唆さました。
「安鍼」の刺激が三叉神経を介して脳幹から頭頂葉や前頭葉に運ばれるからでしょう。三叉神経は橋や中脳に刺激を伝達しますので、この解釈は解剖学的にも肯定されます。
この結果、前頭葉が活性化されることで大脳基底核の線条体から淡蒼球、側坐核、黒質に刺激が伝達し、そこでアレンジされた情報が前頭葉に戻るというシステムや大脳基底核から大脳辺縁系に情報を伝える回路、大脳辺縁系で精査された情報が大脳基底核に戻され視床を介して大脳皮質に送り返されるという回路、更に大脳基底核や大脳辺縁系から脳幹にも刺激が届く伝達路に影響を及ぼすことが考えられます。
この一連の刺激伝達を大脳皮質-大脳基底核ループと呼んでいます。
また、視床に届いた刺激は三叉神経脊髄路手足や胴体からの感覚を脳に送る回路にも入ります。最近の研究では三叉神経脊髄路から直接視床下部に影響をあたえる回路があることが判明しています。視床下部はホルモンや自立神経に深い関係があります。また、ストレスに対抗する機能もあります。
うつや不眠とも十分に関係しています。
そこで、大脳基底核の機能ですが、線条体には恐怖をやわらげたり意思を決定したりする役割があります。
左DLPFC(左背外側前頭前野)との連絡が密なので、お互いの機能を高め合います。
また、大脳辺縁系には記憶や感情に関与する扁桃体、海馬が、更にホルモン分泌や自律神経系に関係する視床下部といった領域があります。
特に扁桃体は不安、悲しみ、嫌悪感、恐怖などの情動を司るため、過敏に反応すると抑うつ症状があらわれることになります。
視床下部には前頭葉や海馬、偏桃体、視床と相互に連絡する回路もあります。ストレスを感じると視床下部から脳下垂体に指令が加わり、それが副腎からのコルチゾールやノルアドレナリンの誘発に繋がります。
コルチゾールはストレスに打ち勝つ作用がありますが、大量になると交感神経系の不調があらわれます。のぼせや動悸、不眠などです。
それを回避する機能を持つのは脳幹の中脳や橋、延髄と言われています。
何故ならば、中脳から橋、延髄に分布する縫線核には、うつなどの気分障害に抵抗できるセロトニン神経が集まっていますし、そのセロトニン神経は前頭葉の左DLPFCや線条体、海馬・扁桃体などといった精神神経活動に重要な役割を持つ器官に連絡しているからです。
抑うつは脳内のセロトニンの低下が大きな原因と考えられていますが、セロトニンの低下によって左DLPFCの機能が弱まると、海馬・扁桃体の情動が抑えきれなくなるとともに、線条体の働きも鈍ってしまいます。
この状態に発展したのがうつ病と言えるでしょう。
そればかりか、うつ状態は頑固な不眠を招きます。
途中覚醒や早期覚醒と呼ばれる不眠型です。
したがって、健全な前頭葉や大脳基底核、脳幹の機能と、大脳辺縁系の安定した働きがうつ病を解消させるために必要なポイントなのです。
少なくとも、左DLPFC(左背外側前頭前野)が不安や嫌悪、あるいは喜び、報酬など様々な情報を冷静に処理すればうつ病には至りません。
前述したように、「安鍼」は前頭葉の血流を促進させ、大脳皮質を活性化します。
それが左DLPFC(左背外側前頭前野)の冷静沈着な思考をもたらすと共に大脳基底核、大脳辺縁系、あるいは脳幹に作用し、不安や嫌悪、悲しみといった情動を緩和させ、精神を安定させることが、脳の伝達系からも推測できるのです。
「安鍼」が脳に与える影響の推察
「安鍼」はうつ病に効果があるばかりか、睡眠導入作用や熟睡作用が臨床で確認されています。
「安鍼」のうちでも、口や耳の周りのツボへの施術は興奮を鎮め、安眠に導くような作用があると考えられます。
途中覚醒や早期覚醒がみられる頑固な不眠は抑うつが根底にあるケースが多いので、抗うつ作用が示唆される目やこめかみ、耳の周囲のツボへの鍼灸治療と併用すること、
即ち「安鍼」を行うことで症状の改善が期待できます。
そこで、次のように「安鍼」の刺激伝達系と、睡眠に関わる器官への波及を考察しました。
憶測の領域を出ませんが、臨床の場で多くのうつ病や不眠症の方が改善、あるいは完治したのは間違いありません。
「安鍼」の刺激が三叉神経を介して脳幹の橋から中脳、視床を経由して前頭葉の血流を増加させることで、左DLPFCの活性化を促します。
それが大脳基底核の線条体や側坐核、大脳辺縁系の視床下部に情報を伝え、修飾された情報が視床を介して大脳皮質に戻るというシステムを強化しているのではないかと考えています。
つまり、大脳皮質-大脳基底核ループの効率化です。
そして前頭葉は睡眠に関わりのある視床下部と相互の連絡がありますので、前頭葉の活性化は視床下部にも良い影響を及ぼします。
つまり、前頭葉→大脳辺縁系→視床下部→前頭葉→視床下部という刺激伝達です。
このように前頭葉と視床下部は密接な関係がありますので、もし、ストレスや抑うつで、前頭葉の機能が低下すれば、視床下部にも不具合が生じ、自律神経失調症状を呈してしまうのです。
前頭葉は意欲や思考、行動を司っていますし、視床下部は自律神経系の中枢があるからです。
また、大脳基底核の線条体は報酬、快感、恐怖など情動に関与していますが、その機能が低下すると、対人恐怖症を起こす可能性が高くなるようです。
側坐核には睡眠導入作用のあるアデノシンの受容体が数多く存在しています。更に側坐核は精神安定に寄与するGABAを産生し、視床下部や前頭葉、黒質の受容体に放出しています。
視床下部には覚醒中枢や睡眠中枢があり、GABAを受けると、睡眠が促進されます。GABAは抑制系の神経伝達物質なので、精神安定作用も有しています。
また、中脳の縫線核には、うつに抵抗できるセロトニン神経が集まっていますし、そのセロトニン神経は前頭葉の左DLPFCや視床下部、線条体、側坐核、海馬・扁桃体などといった精神神経活動に重要な役割を持つ器官に連絡しています。
以上のことから、まずは「安鍼」の刺激により中脳から前頭葉、視床下部、側坐核の活性化が期待できます。それは光トポグラフィーや脳波計を用いた調査から推測できます。
今まで多くの研究者が体や手足のツボにより鍼灸治療を施すことで脳内セロトニンやドーパミン、GABAの分泌に与えると報告しています。まさに同じようなことが「安鍼」でも言えるのです。
しかも「安鍼」の刺激は顔の三叉神経を介して視床から各脳野に浸透しますので、遠くの手足や胴体よりも刺激の減弱が少なくて済みます。
うつ病は脳内のセロトニンの低下が大きな原因と考えられていますが、セロトニンの低下によって左DLPFCの機能が弱まると、海馬・扁桃体の情動が抑えきれなくなるとともに、線条体の働きも鈍ってしまいます。
これがうつ病になるメカニズムと考えられていますが、セロトニン不足は不眠の原因にもなります。
視床下部や線条体、側坐核といった睡眠に深く関わる器官の機能低下が推察できるからです。
また、セロトニンはメラトニンの原料になります。昼間の活動を活発にさせるのはセロトニンですし、安眠を促進するのがメラトニンです。メラトニンの血中濃度はセロトニン量と相関関係があります。
セロトニンが豊富に体内にあると、充実した睡眠が約束されるでしょう。その意味でも中脳や橋の縫線核の存在は重要です。
「安鍼」の刺激は、この縫線核に伝わり、側坐核のセロトニン放出に拍車がかかると考えています。
以上が安鍼のうつ病に対する効果の解説です。
推測もありますが、光トポグラフィーの検査結果は注目に値します。
活脳鍼で薬がいらなくなったうつ病の患者は多数いらっしゃいます。
中には10種類近くの抗精神神経薬を服用していた方もいらっしゃいます。
このような臨床によるうつ病や不眠の改善結果と照らし合わせれば、活脳鍼の精神神経疾患に対する効果は評価できるはずです。
【資料】光トポグラフィー検査
うつ病は症状や行動から推測するのが一般的ですが、近年光トポグラフィーを応用した診断法が脚光を浴びています。
客観的にうつ病の程度が解るので、多くに心療内科や精神神経病院で取り入れられるようになっています。
まずは光トポグラフィー検査装置の説明です。
光トポグラフィー装置は株式会社日立製作所が製造しました。
頭皮に装着されたプローベから近赤外光を頭部に照射して、照射量と戻ってくる反射量を測定して、脳血流の増減を計る医療器械です。
近赤外光は赤血球中のヘモグロビンに吸収されることが解っていますので、血流が増加すれば、当然赤血球の量も多くなります。
その場合、戻ってくる近赤外光の量が減ります。
このようにヘモグロビンに吸収される量の相対的な変化を測定することにより,外からの刺激に対する脳活動の変化を調べることができるのです。
しかも生体には無害ですので、簡便と安全性を兼ね備えた血流測定装置なのです。
光トポグラフィー検査は、平成21年に先進医療として認められ、平成26年4月からは「うつ症状の鑑別診断の補助」として保険診療で認可さられるようになりました。