うつ病の症状は多枝に渡りますが、誰でも一生に1回は罹ると言われています。
心の風邪のようなものと言う人もいます。
うつ病の原因としては、脳幹における神経伝達物質のセロトニンやアドレナリンの分泌不足と言われていますが、前頭葉の左DLPFC(左背外側前頭前野)や大脳辺縁系、間脳の機能低下も大きな原因と言われています。
左DLPFCの役目である『前向きな行動力』も弱まってしまいますし、大脳辺縁系の海馬や偏桃体、間脳の視床下部はストレスに弱いからです。
最近では難聴や視力の低下もうつ病の誘因とみる向きがあります。
また、不眠を訴える方も急増しています。
現代人は様々なストレス状態におかれているからでしょう。
特に根底にうつがあると、途中覚醒や早期覚醒といった頑固な不眠症状があらわれます。
うつと不眠は表裏一体ですので、不眠が緩和すれば、うつも改善します。脳が休まるからでしょう。
目次
うつ病とは?
うつ病の発症
うつ病は心身ともにストレスが溜まり、その状態から抜け切れない人に多くみられる傾向があります。
性格が真面目で几帳面、物事を完璧にこなさないと気が済まないという人です。
俗に言うA型人間です。
いずれにしろ、対人関係を良好に維持したいと思うがあまり、自分が窮地に陥る可能性があっても嫌と言えずに承諾してしまうという心の優しい人に多いのです。
それでも、親身になってくれる先輩や友人・人生の師がいて、色々な相談にのってくれれば、悪化する心配は薄れます。
解決策が見いだせるからです。
ところがうつ病になりやすい人は、周囲に腹を割って話ができる相手が少なく、ひとりで問題を抱え込んでしまうことが多いのです。
やり遂げることができないと、自分の能力を卑下し、仕舞には自分の性格から生き方まで否定するようになってしまうのです。
うつ病の症状
うつ病になると、嘆いたり悲しんだり憂鬱になったりするとともに気力も落ち、何もする気が起こらなくなってしまいます。
今まで熱心に取り組んでいたことにも興味を失ってしまうこともあります。
また、食欲や性欲も減退し、不眠にも悩まされるようになります。
更に思考力や決断力も落ちるので、自分を卑下して場合によっては自殺を考えてしまうこともあります。
当然、薬の力を借りても自殺だけは阻止しまければならないのは言うまでもありませんが、本人の苦しみは不治 の病にも匹敵するでしょう。
このようにうつ病には心の症状だけではなく、身体的な症状も併発することが多いし、重大な問題もはらんでいるのです。
心にあらわれる症状
悶々とした心の憂いはそう簡単に消えることはありません。
悩み悩んで心の混乱がマックスに達しているからです。
家族や友人の励ましや忠言にも耳を傾けず、ひとり思い悩み解決の目途がつかなくなくなります。
全てのことが否定的になり、些細なことでも深刻に考えてしまう結果、うつ状態から脱出することが困難になります。
また、うつ症状は午前中が最悪で、夕方になると憂鬱とした気分が軽くなる傾向にあります。
それを見た周囲の方が強い言葉を投げかけてしまうことがあります。
回復したと勘違いしてしまうのでしょう。
これが悪化に拍車をかけている場合もあります。
とにかく、うつ病は病気ですので、気の持ちようで治りません。
身体にあらわれる症状
うつ病は肉体にも影響を及ぼします。
前述したように、なかかなか寝付かれない上、眠っても途中で何度も目が醒めてしまうという睡眠障害が、最も多い身体化障害です。
特に一度目が覚めたらその後ウツラウツラで眠れずに朝を迎えてしまう睡眠障害は深刻です。
良質な睡眠を誘導するセロトニンやメラトニンの分泌が低下しているからです。
諸症状を悪化させるし、回復も遅らせます。
また、不眠との関係はこれだけでありません。
うつ病の発症にも深く関わっていることが示唆されています。したがって、心療内科医などの専門家は熟睡が確保できれば、うつ病は回復に向かうと言っています。
うつが脳に与える影響
大脳辺縁系に属する海馬や偏桃体の機能も狂ってしまいます。
海馬は記憶や学習に関する働きがありますし、偏桃体には不安や緊張、恐怖に反応する機能があります。
互いに密接に連絡し合い情報を共有し合うので、うつ病になると、頭の回転が悪くなったり、つまらないことに不安や恐怖をおぼえたりしてしまいます。
実際、長期にストレスを感じるとストレスホルモンのコルチゾールの影響で海馬の萎縮が確認されています。
また、視床下部には自律神経の中枢があります。
脳下垂体には各種の刺激ホルモンを分泌する働きがあります。抑うつやストレスでアドレナリンやコーチゾンの分泌が高まり間脳の機能が崩れると、下記の様な不快な症状が現れます。
- 食欲不振
- 疲労感
- 不安
- 焦燥
- 怒り
- 肩凝り
- 動悸
- 微熱
- 手足の冷え
- のぼせ
- 下痢便秘
- 生理不順
- 精力減退 など
まさにストレス障害や更年期障害時の自律神経失調症状です。
人により記憶力・判断力の低下や、手足の痛み・シビレなどの症状を伴ったり、難聴や視力低下を訴える人もいます。
うつ病の症状の多くは理解の及ぶ範囲ですが、なかには解りにくいものもあります。
それは難聴や視力低下です。
うつ病は聴力に深い関係のある側頭葉や視力を調整する脳幹にも影響を及ぼしますので、知らず知らずに耳の聞こえや、見えにくいという症状があらわれるのでしょう。
実際、聴力の低下も視力低下もうつ病の発症に関係があるとの研究結果が複数発表されています。
うつ病と脳内伝達ホルモン
セロトニンとノルアドレナリン
うつ病は
- 遺伝的な要素
- 更年期障害
- ストレス障害
- パニック障害 等
といった他の精神疾患によって発生することがあります。
しかしいずれの場合でも、早期覚醒・浅睡眠など深刻な不眠症を併発することが多く、その対策も必要不可欠になります。
実際抑うつ状態になると、不安や怒り・恐怖を取り除き、充実した睡眠を誘導するセロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の濃度が低くなっています。
うつ病は病気ですので、脳に変化が起きているのは確かです。
それは 脳の伝達ホルモンの分泌低下と、それによる神経細胞の伝達不良が挙げられます。
脳神経細胞は突起を四方に伸ばしている細胞の本体と、長く伸びる軸索で構成されています。
そして軸索終末には次の脳神経細胞に情報を伝達するシナプスと呼ばれる部分があります。
これらをニューロンと呼び、脳神経の単位としています。
この間を情報が微弱な電流として流れています。
大脳のニューロンの数は約140億と言われていますので、人間の脳は膨大な量の脳神経細胞で成り立っているのです。
また、シナプスと隣の脳神経細胞とは直接の繋がりはなく、間隙で仕切られています。
当然、情報は電流として伝わりません。
そこで、その間隙の伝達はホルモンの一種であるセロトニンやノルアドレナリンが行っています。
つまり、隣の脳神経細胞には化学的な刺激として情報伝達しているのです。
このような仕組みで張り巡られた脳神経に様々な情報が次から次に届くことで、正しい判断と行動ができるので す。
ところがうつ病の方は、このセロトニンやノルアドレナリンの分泌の低下や有効活用ができないという現象がみられます。
このセロトニンやノルアドレナリンは脳幹の細胞で生成され、それが全脳に届けられるのです。
脳における脳幹の占める割合は僅かですが、人が生きるために大切な仕事をしているのです。
左背外側前頭前野(DLPFC)の機能低下
左背外側前頭前野(DLPFC)の血流低下
確かにうつ病の改善にはセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの脳内の伝達ホルモンが重要な位置を占めています。
ところが、長引くうつ病は前頭葉の機能低下が原因という見方もなされています。
セロトニンやノルアドレナリンの濃度を高める抗うつ剤だけでは治りきらないケースが多々見受けられ、そういう方の多くに前頭葉の血流低下が確認されたからです。
特にうつ病の方は左DLPFC(左背外側前頭前野)の血流低下が顕著でした。
DLPFCは前頭葉の左側と右側にありますが、うつ病との関わりが深いのは快予測を司る左側のDLPFCです。
つまり、楽しいことや嬉しいことを感じ取り、意欲や思考力、判断力、興味など明るい気持ちを起こさせ、積極的な行動を行う左DLPFCの機能が低下し、その反面大脳辺縁系が過剰に働くことで、左DLPFCの血流低下がみられるというのです。
そこで、左DLPFCの血流を増加して改善させるという治療法が行われるようになりました。
その治療を行うためには、左DLPFCの血流状態を調べなくてはなりません。
現在、脳の血流を測定する機器は光トポグラフィーや脳シンチグラフィーがあります。
脳シンチグラフィーは脳の隅々まで検査が可能ですが、放射性物質を利用しますので、大きな病院の核医学センターなどで行っています。
一方、光トポグラフィーは、ヘッドギア―のようなセンサーを頭部に装着して、赤外線を照射することで赤血球の量的な変化を測定することにより血流状態を判断しますので、安全で簡便です。
そのため、うつ病の診断や改善度を調べるために光トポグラフィー検査を多くの心療内科が取り入れるようになりました。
抗うつ剤の効き目の判定にも利用されています。
大脳辺縁系の機能異常
大脳辺縁系は前頭葉や頭頂葉などからなる大脳皮質の内側にあり、脳梁の上にかぶさるように存在します。
帯状回・海馬体・扁桃体・乳頭体・側坐核・脳弓などから構成されており、機能的には情動や睡眠欲、食欲、性欲、欲情などの本能を司っています。
また、記憶や自律神経の調節にも関与しています。
特に扁桃体は長期記憶に関わるだけではなく、前頭葉や視床やから送られてくる情報を分析し、相応の情動を喚起しています。
自分にとって有益か否か、愉快か不愉快か、好きか嫌いかなどを判断し、その結果を自律神経系や内分泌系、骨格筋系の反応や、喜怒哀楽、恐怖、不安などの感情的な反応としてあらわします。
この大脳辺縁系の過剰反応がうつ病の発生につながることが示唆されています。
また最近、先に解説した左DLPFの機能低下と密接な関係があると言われるようになりました。
つまり、長引くストレスで大脳辺縁系が過敏に反応することで、抑制的に働く左DLPFの機能が低下してしまうことです。
理性や観念で感情や本能を押さえつけているうちに左DLPFが疲弊し、扁桃体や海馬のマイナス的な感情が優位に立ってしまうとも言えます。
特に扁桃体は不安や悲しみ、恐怖、焦りといった情動に支配されやすいので、過剰な反応を起しやすくなります。
扁桃体が興奮すると、コルチゾールなどの抗ストレスホルモンの分泌も促進されることで、脳内にセロトニンやメラトニンの伝達ホルモンの不足が起こり、うつ病のスパイダルが確立してしまいます。
それどころか最近うつ病を発症すると、海馬にも大きな影響をもたらすとの報告がなされています。
実際MRIで画像診断を行うと、患者さんの多くに海馬の萎縮がみられました。
ストレスに弱いという側面もあるからです。
特に海馬は情動の他に学習や認知機能を司っていますので、認知症が加わると更に萎縮が進みます。
恐らく持続的な抗ストレスホルモンの分泌が海馬の細胞を壊死させてしまうのでしょう。
うつ病や不眠は脳幹の神経伝達物質の分泌低下
脳幹は中脳、橋、延髄に分けられます。
うつ病や不眠との関係が深いとされているのが、脳幹の縫線核や青斑核、腹側被蓋野です。
縫線核は脳幹の中脳、橋、延髄に分布していて、うつ的な気持ちを緩和させるセロトニンを分泌します。
セロトニンの殆どは脳幹で生産されています。
また、青斑核は橋にあり、アドレナリンを分泌しています。
腹側被蓋野はドーパミンを分泌しています。
また、これらの伝達ホルモンは前頭葉や大脳辺縁系に神経伝達されます。
特に海馬へは強い刺激が伝達されます。
逆に前頭葉や大脳辺縁系、・視床下部からの連絡もあります。
副作用が少ないうつ病の薬として有名なSSRIは、このセロトニンを再利用し神経伝達を促進しています。
また、重度のうつ病に利用されるのが、アドレナリンやドーパミンの製剤です。
このことからも脳幹のセロトニンなどの神経伝達物質の分泌低下がうつ病の発症や悪化に関わっていることが容易に推測できます。
また、睡眠を促進させるのがセロトニン、覚醒させるのがアドレナリンやドーパミンと言われていますので、うつ病による頑固な不眠も脳幹が関与しているのは間違いありません。
ちなみに脳幹から視力を司る動眼神経など、聴覚の中枢がある側頭葉に連絡する神経が延びています。視力や難聴がうつ病のあらわれと言われるようになりましたが、恐らく脳幹の神経伝達ホルモンの分泌の衰えにより、物が見えにくくなったり耳の聞こえも悪くなったりするからでしょう。
うつ病とは?のまとめ
専門家の意見をまとめると、抑うつ的になりやすい人が結婚や妊娠、死別、転職などの生活環境の変化、あるいは季節的な要因で左DLPFC(左背外側前頭前野)の機能が低下し、相対的に扁桃体の機能が亢進したときに頻発するようです。
そのとき、抗ストレスホルモンのコルチコイドやノルアドレナリンの過剰分泌が起こり、精神を安定させたり気分を明るくさせたりするセロトニンや、熟睡に必要なメラトニンの脳内濃度が低下し、自己回復困難なうつ病が発生するということになります。
なので回復するためには、ストレスを解消し精神安定をはかり、熟睡できるようにすることです。
薬による眠りは、脳の一部が覚醒しているという説があります。
とにかく、自然に熟睡できるようになれば、うつ病からの脱出は目の前に迫っています。
不眠症とは?
何か考え事をしたり、大きな心の負担になることがあれば、十分な睡眠がとれないのは当然のことでしょう。
これは誰でも経験することです。
ところが、不眠が常習化すると精神や肉体に悪い影響を与えてしまいます。
悪質な睡眠障害は寝つくのに時間がかかるばかりか、例え寝入っても途中で何度も目が覚めてしまいます。
なかには夜半に目覚め、その後一睡もできないという方もいます。
その多くは根底にうつがあります。
東洋医学における睡眠障害
何らかの睡眠障害を感じている方は全国に5人に1人ぐらいいると言われています。
今や国民病の領域に差し掛かっています。
生活苦、制約の多い社会、急激なコンピューターの普及など、考えられる原因は幾多に及びます。
但し、原因不明のことも多く、対応に苦慮しているケースもみうけられます。
打開策を薬に求めると、長期服用による心身への悪影響や、止めるときの離脱症状が心配になります。
鍼灸でも漢方でも古くから不眠対策が練られてきました。
その原因の多くは肝と心の機能失調とされています。
但し、東洋医学で言うところの肝や心は、西洋医学的には解釈できないところが多々あります。
その極め付きは臓腑が精神活動をしていることです。
上図の五行の志のようにです。
そこで、肝臓、心臓とは呼ばず、単に肝、心とあらわしています。
ただ、理論は古めかしくても優れた効果がありますので、気にするほどではありません。
副作用が皆無に近ければ結果オーライが成り立ちます。
東洋医学では肝の生理的な働きとして疏泄作用をあげています。
身体に必要な気血水を巡らせ、のびのびとした気持ちにさせる作用です。
気はエネルギー、血は血液、水はリンパ液とおおざっぱに解釈すれば解り易いでしょう。
したがって、疏泄作用が衰えれば心が委縮して不快な気持ちになります。
また、血を蓄えるという蔵血作用もあります。
肝は起きている間、目に血を送り物が見えるようにすることで活動を支援しますが、眠るときは肝に血を戻すことで気持ちを落ち着かせます。
この蔵血作用が不調になれば夜床にはいっても目がさえて眠ることができません。
あるいは頻繁に目が覚めてしまうといった不眠を招きます。
また、東洋医学では身体は気、血、水で構成されていると言われています。
それぞれの過不足が病気の原因になるとされています。
したがって、不足を補い、過剰を去ることが養生や治療になります。
臓腑の機能も気、血、水であらわすことができます。
心は血流や心拍をコントロールしていますが、その他に精神活動や意識を維持させる役目も担っています。
したがって、心は血と気の機能があるのです。
精神活動が過剰になれば興奮状態になりますし、停滞すれば意気消沈してしまいます。
また、意識は深く睡眠に関わっています。
起きているときは意識を持たせ、眠ったら意識を消失させる、この切り替えを行っているのが心なのです。
したがって、心が正常に働かなくなると、不眠に悩まされるようになるのです。
更に肝や心の機能を狂わせる元を怒、喜、思、憂、恐、驚、悲の7つの感情の乱れとしています。
東洋医学では不眠の原因をこのように定め、鍼灸や漢方で対峙してきました。
鍼灸の作用としては自律神経系を調整して、興奮している交感神経を鎮静化するとともに副交感神経を優位に導き、心をリラックスさせることで眠りを誘うとされています。
この作用機序は多くの研究機関から報告されていますし、WHO(世界保健機構)を支持しています。
但し、鍼灸でも十分な効果が得られないこともあります。
不眠の原因や症状、あるいは脳機能の失調など、対処しなければならない問題が山ほどあるからです。
不眠症の種類
不眠症を大別すると、
- 夜床に入っても寝つけないという入眠困難
- 眠っても途中で何度も目が覚めてしまうという中途覚醒
- 早く目が覚め寝足りないという早期覚醒
- 睡眠が浅く頻繁に夢をみて熟睡できないという熟眠障害
があります。
入眠困難
眠ろうとしても様々なことが脳裏に浮かび、それが気になって眠れないとう状態をつくってしまいます。
気になることが一過性でしたら、次第に眠り易くなりますが、簡単に解決できない問題があると、なかなか脱出できません。
その他の原因として昼間の活動不足や睡眠リズムの乱れなどがありなすが、男女年齢を問わず、幅広い層で認められるので、神経質な性格もわざわいしているようです。
いずれにしろ、睡眠障害のうちでは軽い方です。
中途覚醒
寝ついても眠りが浅く、一晩に3回以上起きてしまう睡眠パターンを中途覚醒と言います。
一般的に眠りの浅い神経過敏な方にみられる現象ですが、この場合は寝室の湿度や温度、あるいは騒音などの条件が加わることで頻発すると言われています。
また、高齢者も睡眠が浅くなりますので、多くの方が悩んでいます。
但し、慣れにしたがい睡眠不足感は薄れるようです。
その他、寝しなに水分を摂りすぎることも中途覚醒の原因になります。
特にビールやお茶、コーヒー、紅茶などの利尿作用にある飲み物は要注意です。
病的なものとしては、認知症や睡眠時無呼吸症候群、うつ病が挙げられます。
早期覚醒
自分が望む時間より早く目が覚め、その後一睡もできなくなる睡眠パターンを早期覚醒と言います。
とは言っても、睡眠不足感がなく昼間の活動に支障がなければ、不眠症とは言えません。
多くは高齢者にみられます。
加齢とともに松果体が委縮しメラトニンの分泌量が減ることが原因とされています。
慣れると睡眠不足感がなくなります。
問題なのは、目覚めがスッキリせず、昼間疲れを感じたり眠くなったりして元気がでない場合です。
こうなると、心身ともに不調を感じるようになります。
病的な早期覚醒の原因の多くはうつ病などの精神神経疾患が潜んでいる場合です。
セロトニン不足がメラトニン不足を呼び、 慢性的な早期覚醒になってしまうのです。
まだ暗いうちに新聞配達や牛乳配達のバイクの音が耳に入ると、やり場のない焦りが生じ、悶々とした気持ちで朝を迎えることになります。
熟睡障害
熟睡障害は、
- 眠っても夢をみることが多く
- わずかな物音でも目が覚めてしまう
- 眠っているのに目が覚めているよう感覚がある
などがあげられます。
したがって、朝起きてもシッカリ眠ったという気がしません。
浅い睡眠が続く場合に起こることが多いとされています。
睡眠は脳も身体も休んでいる状態のノンレム睡眠と、脳は起きているが身体は休んでいるレム睡眠に分けられます。
熟睡障害はレム睡眠の割合が多いので、眠りが浅くなってしまうのです。
脳の疲労も十分にとれないので、朝の目覚めもスッキリしないのです。
原因は
- 昼間の興奮が冷めやらない
- ストレス過多で自律神経の乱れがある
- 抑うつ的になっている
- 神経が過敏すぎる
様々です。
その他、最近では睡眠時無呼吸症候群との関係が取りざたされています。
厄介な睡眠障害とは?
中途覚醒と早期覚醒
問題となる睡眠障害としては中途覚醒と早期覚醒が筆頭に挙げられます。
加齢に伴うものでしたらさほど心配する必要はありません。
また、睡眠時無呼吸症候群が原因でしたら、
- 枕の調整やマウスピースの着用
- 手術
などで落着することがあります。
ところが、根底に抑うつ状態やうつ病があると、簡単には解消しません。
うつ病と不眠症との関係
世界的には、成人の25%が不眠を訴えています。
日本でも睡眠薬を服用している人は200万人以上にのぼるとも言われます。
このような不眠の原因はうつ病が背景にあると思われています。
実際、うつ病は5人に1人が一生に一度は経験すると言われているぐらい多発しています
厚生労働省によって行われた「患者調査」の結果でも2002年以降、患者数が大幅に増加しています。
しかし、医療機関にかかっていない患者は数字に出ていないため、実際の患者数は更に多いものと推測されます。
また、うつ病治療に併用される精神安定薬や睡眠薬の国民使用率も上昇しています。
不眠症は
- 心疾患や呼吸器疾患
- 泌尿器疾患
- アレルギー疾患
- 腰痛やむちうち症などの疼痛性疾患
- 前立腺肥大症
- 認知症・脳血管疾患
などの病気や、
寝室の騒音や温度・湿度といった生理学的要因によって発現することが知られていますが、最も多いのは
- 心理的要因
- 精神医学的要因
- 自律神経系の失調
です。
特に
- うつ病
- 神経症
- ストレス障害
- 更年期障害
で不眠が発現することが多いのです。
メラトニンと成長ホルモン
睡眠リズムは、深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠に大別されます。
ノンレム睡眠になると、身体を動かすことはできますが、脳は休息しています。
逆にレム睡眠になると、脳は活動していますが、身体は休息しています。
睡眠中、凡そ90分おきに両者が入れ替わります。
また、ノンレム睡眠のときに様々な脳内ホルモンの分泌が活発になり、心身の機能を回復させると言われています。
特に最初のノンレム睡眠のときに下垂体からの成長ホルモンの分泌が促進されます。
この成長ホルモンの量が減少すると、気力の低下や自律神経失調を招きます。
したがって、ノンレム睡眠が身体の健康維持に深く関わっていることが解ります。
この睡眠リズムを調整しているのがメラトニンです。
メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、昼間分泌されたセロトニンから合成されます。
うつ病になり、セロトニンの分泌が減ると、必然的にメラトニンの量も減ってしまいます。
このことからも不眠症とうつ病との関係がうなずけます。
更に睡眠が浅いと、抑うつ気分を抑制する甲状腺ホルモン、性ホルモンの分泌も減ってしまいます。
上記のグラフの赤線や青線は深い睡眠(ノンレム睡眠)が訪れないことを示しています。
特に赤線は早期覚醒がみられるので、最も悪質な不眠症と言えます。
多くうつが根底にある場合にあらわれます。
この対策には原因となるストレスを解消し、かつ睡眠リズムを是正することが肝要ですが、うつ病の改善も必須となります。
メラトニンが夜間十分な量のメラトニンが分泌されなくなると、入眠困難になるばかりか、ノンレム睡眠とレム睡眠のめりはりがつかなくなってしまいます。
大切な最初のノンレム睡眠もレム睡眠に近い状態になってしまうでしょう。
また、メラトニンは朝方からセロトニンに変化することが解っています。
ですから、日中明るく前向きな行動がとれるのです。更に太陽光線を浴びることで、メラトニンの合成が促進されます。
昼間の行動が夜の睡眠にも影響を与えるということになります。また、適度な運動でも増えます。
ですから、うつ病の方は朝日を浴びながら散歩することが勧められます。
実際、緯度の高い北欧では、日照時間が減り始める秋ごろからうつ病が頻発しています。
その他、メラトニンには
- 時差ボケの緩和
- 免疫力増強作用
- 抗酸化作用
- 抗がん作用
があると言われています。
ストレスが続くと、副腎皮質ホルモンの分泌が高まり、松果体に影響が出てしまうことがあります。
それに伴ってメラトニンの分泌が変化することがあります。
メラトニンの分泌が低下すると、「昼は活動的に、夜は眠る」という生体リズムが狂う原因となり、その結果 不眠症になることもあります。
メラトニンの血中濃度は概日リズムを示し、睡眠と関連しています。
欧米では生体リズムを調節する作用や催眠作用があるため、合成メラトニンを不眠治療に用いています。
根底にはうつ状態がある
うつ病の典型的な睡眠障害は中途覚醒や早期覚醒です。
また、このような睡眠障害はうつ病を改善することで緩和されます。
したがって、抗うつ作用のある治療が中途覚醒や早期覚醒の改善に必要なのです。
そこで、左DLPFCの血流を増加して不愉快な感情に的確な対応できるようにするTMS(経頭蓋磁気刺激法=けいとうがいじきしげきほう)と呼ばれる治療法が行われるようになりました。
実際、うつ病やそれに伴う睡眠障害に効果があるという臨床結果が関連学会に報告されています。
うつ病になると前頭葉の左DLPFC(左背外側前頭前野)の血流が低下し機能不全を起こすことで正常な判断がつかなくなり、不安や恐怖、焦燥などの感情に流されてしまいます。
それが絶えず脳裏から離れず、安眠できなくなってしまうのでしょう。
また、最近右DLPFCの機能低下もうつ病にみられるという知見もあります。
右DLPFCは不快予測する場所なので、もしかすると躁状態を意味しているのかもしれません。
左右のDLPFCの機能低下は双極障害、つまり躁鬱病になっているという憶測も成り立ちます。
この場合、左右の血流増加とともに、左脳の活性化と右脳の鎮静化がうつ病からの回復に役立つのではないかという仮説が立てられます。
また、不眠の原因として脳幹の機能低下も挙げられています。
脳幹にはセロトニンやアドレナリンを分泌する細胞が多数存在しています。
このうちセロトニンは睡眠を促進させ、アドレナリンは覚醒させます。
両者のバランスが適度に整っていますと、自然の生体リズムも健全化し、睡眠リズムも整います。
セロトニンは睡眠リズムを整わせるメラトニンに変化します。
このように睡眠が浅く途中で目覚めてしまうと、心身の疲れが取れないばかりか、自律神経の機能も低下したままになってしまうのです。
これではうつ病の改善は望めません。
一刻も早く睡眠障害を解消する必要があります。
多くの専門家は質の良い睡眠が十分に取れれば、うつ病は解放に向かうと言っています。
うつ症状には、
- 自律神経失調症
- 更年期障害
- パニック障害
等といった他の疾患によって生じるものや、
- 一過性のストレスに起因するもの
- 季節
- 生体リズム
等の身体の内部の変調によって生じるもの等があります。
いずれの場合でも、うつ状態ではセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の濃度が低くなっているという点が共通しています。
特にセロトニンの分泌不足は、うつ症状だけではなく、早期覚醒などの不眠症状を引き起こします。
また、セロトニンが減るとメラトニンにも影響を与え、更に不眠を悪化させてしまいます。
この場合、セロトニンとメラトニン両方の分泌を高める必要があります。
昼間作られたセロトニンは、夜メラトニンに変化します。メラトニンは、朝セロトニンに変化します。
お互いがお互いを作る材料になっているのです。
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