「健やか鍼」の臨床報告

症例 M・Tさん 26歳 女性

強迫性障害 過食嘔吐、生理不順、自律神経失調(首肩の凝り、疲労感、不眠、めまい、足の冷えとむくみ、貧血)

体調を崩したのは、食べては吐くという無謀なダイエットを繰り返したのが原因だと、伏し目がちに話しだした。あたかも自責の念のとらわれている様子だった。職場の飲み会で、同期の男性から、もう少しスリムになれば、俺が彼氏に立候補するよと言われたことが事の始まりとのこと。冗談で言ったのだろうが、セクハラにとられても仕方がない言葉である。身長は153cmで、当初、体重が63kgもあったとそうだ。当初、ダイエット本を参考にして、1日800キロカロリー程度の食事にしていたが、次第に食欲を抑えられなくなり、夕飯時に好きなものを満足するまで食べるようになってしまったとのこと。当然、体重は急速に元に戻る。そこで、過食嘔吐により摂取カロリーを制限するようになってしまったそうだ。そして、このようなことを半年近く繰り返しているうちに、首肩の凝り、疲労感、不眠、めまい、足の冷えとむくみ、生理不順などの症状が出てきたと話していた。勤め先近くの心療内科の診断では、強迫性障害や過食嘔吐による自律神経障害とのこと。そこで、脈診や舌診などの東洋医学的な検査の結果、脾虚という体質が判明したので、それに応ずる経絡治療を施し、次に活脳鍼をしたり、至陽や、膈兪、百会、三陰交、関衝、行間、失眠、曲池、足三里、中脘、大巨、気海、耳の心門などのツボに鍼灸治療を行ったりして、経過を観察することにした。鍼灸治療において、自律神経系やホルモン系のバランス異常を是正することは、さほど難しいことではない。但し、この症例の場合は、過食嘔吐の癖を改めさせることも必要だし、それがやめられないことによる嫌悪感も払拭させなければならない。過食嘔吐患者の多くに脳の前頭前野の血流低下がみられるという。うつ病も同じような報告がある。したがって、活脳鍼を選択したわけだ。勿論、来院する度、食欲は本能なので、どんな強靭な神経の持ち主でもダイエットを続けているうちに過食嘔吐に陥ることはあり得るということと、そのリスクは大きいので、可能であれば止めた方が賢明であるいうことを伝えた。このような治療を反復しているうちに、自律神経失調症状が軽くなるとともに、生理も順調になり、4ヶ月後には全く過食嘔吐もしなくなっていた。現在、夕食を少な目にして、スポーツジムで汗を流すという習慣を続けることで、54kgの体重を維持している。