「安鍼」の臨床報告

臨床例 K・Oさん 52歳 女性 

更年期障害(抑うつ、不眠、動悸、首肩の凝り、頭重感)

主訴は、首肩の凝りと頭重感、動悸と不眠であった。年齢的にも更年期真っ最中である。不思議にも婦人科ではなく、心療内科に通院していると言う。飲んでいる薬は、精神安定剤と入眠導入剤である。時期が来れば、症状は和らぐであろうが、薬剤に耐性を帯びてしまったら困る。離脱できなくなる可能性があるからだ。本人も、そのことを心配している様子だった。でも、熟睡できない日が続くとイライラして、少しの動作でも動悸が激しくなり、夜になると、その動悸が気になって中々寝付けなくなるという悪循環を繰り返すので、どうしても薬は欠かせないとも言っていた。そこで、東洋医学的な検査結果から導かれた肝虚という症候に対する経絡治療を施し、次に優れた精神安定作用のある至陽(しよう)や、その脇の膈兪(かくゆ)、頭の百会(ひゃくえ)、足の三陰交(さんいんこう)や行間(ぎょうかん)、失眠(しつみん)などのツボに鍼灸治療を施し、更に頭重感や首肩残りを撮るため、頭や首肩に散鍼(さんしん)と呼ばれる軽い鍼刺激を与え、筋肉が極度に緊張しているかところに皮内鍼を粘着テープで固定し、初回の治療を終えた。また、自宅で就寝時、鼻の下に円皮鍼を貼ることも勧めた。安鍼の応用である。この養生法は、多くの人からよく眠れると褒め言葉を戴く。再診は1週間後だったが、見違えるほど顔色が良く、言葉も軽やかになっていた。尋ねると、ベッドに横になると、すぐに眠くなり、5~6時間ぐらいは熟睡できると、不眠症状の改善を述べていた。とにかく、更年期障害の諸症状は、良質な睡眠が取れれば、軽くなるケースが多い。この方も4~5回の治療で、首肩の凝りや動悸が静まり、イライラする日も少なくなった。ところが、その後、十分睡眠を取っているのに、朝眠気がなくなるまで、時間がかかるし、午前中ボーっとしていることが多いと言い出した。しめた、もしかしたら、睡眠導入剤が切れるかもしれないと思い、その旨を心療内科医に伝えるようにアドバイスした。睡眠導入剤が効きすぎると、朝もうろうとすることがあるからだ。案の定、睡眠導入剤の量を減らされた。また、これからも症状に合わせ暫時減薬していくと言われたそうだ。